第2章 出発日.中国第1日目 亀岡−>上海−>蘇州 (6/67)

旅行は中止?

 風18号は24日午前6時過ぎ熊本県に上陸し、北北東に進んでいました。楽しみにしていた旅行は、ほぼ100%ないと思っていました。

 というのも、台風18号はこの朝、熊本県北部に上陸し、九州北部を縦断。熊本県不知火町では高潮が集落を襲い、住民12人死亡、広島県でも4人が死亡、九州、中国地方では100万戸以上が停電していたのです。

 「関空を見て帰ってくるかもしれないけど、とりあえず行くわ」と留守を守る父親に言って、私と母は人よりうんと小さめのかばんを提げて、頼んでいたタクシーに乗り、亀岡駅に向かいました。

 空
は晴れています。時刻は11時、出発は午後3時40分です。台風18号は出発時刻ころが一番関空に接近しそうです。駅に着くなり、市役所の職員から特急「はるか」が運休になったのでバスで関空に向かうとの連絡を受けました。そうなると今度は、バスが私のナニを関空まで運ぶ心配をしなければならなくなりました。

 市の職員さんが、駅から100メートルほど離れたバスまで車イスを押してくれます。 忙しいことにナニの心配より先に、まず「バスの乗り降り」を心配する必要があります。 最近の観光バスはステップも5段ほどあり、しかも、途中から螺旋状に奥の方に曲がっていて実にやっかいなステップです。

  私は人にお願いする立場でしたので、だれかが「これは無理やなぁ」などと言われるとどうしようもありません。いわばまな板の上の鯉状態です。 一体だれがどういうふうにして私を抱え、椅子に座らせたのか記憶がありません。 それくらい緊張していたのです。私は生まれて初めて他人に抱えられてバスに乗ったのです。

 少しでも早く関空に着きたいということで、予定時刻より早めに亀岡駅前から出発しました。見慣れた町並みをバスは通過します。 空は不思議なことに晴れています。ただ雲は見たことのないほどの異様な早さで動いていて、あっという間に姿を変え、新たな雲が現れ、台風が急接近していることを告げていました。

 大阪から和歌山沿いの高速道路に入ったころになると、風が急に強くなり出しました。 高速を走っていても、突然「ゴゥー」という風の音が窓を通して聞こえ、その度に総重量10数トンのバスが「グラッ」と不意に揺れます。 運転手もハンドルを取られないように真剣な顔です。周辺の木々が風下に折れるほどしなり、ちぎれた木の葉が空を舞っています。 これはもう観光ではなく、台風取材に向かう撮影クルーです。

 そして、海上の関空に至るゲートブリッジ(連絡橋)にさしかかりました。 海は白い大きな波が「ザバーン」と至る所で立って、あっという間に砕け散ります。やがて、関空が見えてきたとき、バスの中でけげんそうな声がしました。
「変や、1機も飛行機が飛んでない、普段やと見かけるんやけど」

 実は私は見たのです。ゲートブリッジに設置してある風速計の数字が17であることを。
(秒速17メートルというのは時速60キロで走る車の窓を開けて顔に風を受けているのと同じです。)

inserted by FC2 system