第4章 中国第3日目 蘇州−>上海−>昆明 (38/67)

出会い

 部屋に戻りましたが、11時までほんの少し時間があったので、私1人でエレベーターに乗り、ロビーをうろついていますと、ホテルの各階の内容が書かれています。読むと地下1階に売店がありましたので、私1人で降りていきました。

 売店に入ると、時間が遅かったせいか、店員さえ見あたりません。しばらくするとやっと中国人の女性店員がやって来て、片言の日本語で応対をします。私のお目当てはパンダのぬいぐるみだったのですが、1つ120元(1560円)と結構な値段がします。本当のパンダの毛かと聞くと「兎毛」と漢字を書いてくれました。しかし、考えてみれば、ぬいぐるみにまで本物のパンダの毛を使っていたら、冬場に風邪を引くパンダが続出したでしょう。

 2人で話をしていますと、母がやって来ました。店の中央の陳列ケースの中の指輪を見ています。

悪い予感がします

 中国に来て以来、母は見るもの触るものがとたんにほしくなっていました。じーーと翡翠(ひすい)をのぞき込んでいます。母は24金の指輪をしているのですが、やっぱり金は金、翡翠(ひすい)は翡翠(ひすい)なのでしょうか。しかし、男性にとってダイヤモンドもルビーも、はたまた翡翠(ひすい)でさえも川原に転がる石とそう大きく違いがあるように思えません。さめた目ではそういうふうに思えるのですが、夜店のフランクフルトをほしがるような母には理解できないことでしょう。

 そういう複雑な気持ちでいましたら、はたして私の所に駆け寄ってきて
麻薬患者のような目つき「今お金なんぼある?」と聞きます。

 その言葉の勢いですと、店の翡翠(ひすい)をすべて買い占めそうです。これはいくら何でも危ないと思いましたので、そのときウエストポーチに全額持っていたのですが「部屋に忘れてきた」と言いますと、「お前という子は一人で育ったと思ってるの?」みたいな非難の目つきでにらまれました。

 そのときには、片言の日本語で話をした若い女性店員と2日後、市内観光をするとは私もその彼女自体も想像もしていなかったでしょう。人と人との出会いというのは、さりげなく訪れるものです。

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