第6章 中国第5日目 昆明 (55/67)

翠湖公園

 タクシー2台を止めて、それぞれ乗り込みますが、例によってタクシーの運転手は苦労して私を後部座席に座らせ、車イスをトランクに収納します。ようやくタクシー2台がホテルを出発したのは午前10時ころだったでしょうか。

 タクシーが止まったところは大きな公園の前でした。表の看板に翠湖公園と書いてあります。翠というのは「みどり」という意味です。入園料は4人で8元(104円)でした。公園は市民で一杯でした。その日は火曜日の午前中でしたが、かなりの人がいます。

 私はそこで初老の車イスのおじいさんに出会いました。後ろには妻らしき人が車イスを押していました。私の後ろには妻らしくはありませんでしたが、26歳のきれいなお嬢さんが車イスを押してくれています。お嬢さん達に「なぜこの公園を選んだのですか?」と聞くと「この公園は階段がなく、フラット(平坦)だからです」と答えました。

 彼女たちは彼女たちで、車イスの私のことを考え、一体どこがいいのかあれこれ考え巡らせ、この公園を選んだのだということを知りました。その配慮は日本人だからとか、中国人だからというものではなく、いうならば「人間」だからということなのでしょう。どこに行っても優しい人はいるものであり、今回の旅行ではそんな優しい人しか出会わなかったのです。

 いつもは齢73歳の母が車イスを押してくれます。押してくれますというか、それ以外の人がいません。ぜいたくは言えません。ところが、今日は齢26歳のお嬢さんが車イスを押してくれます。天気は暑いくらいの快晴です。気分も快晴です。母がいなかったらもっと最高だったでしょう。

 ふと見るときれいな衣装の一群が踊っていて、その回りを人込みが囲んでいます。私たちが行ったのは平日で、しかも観光客など来ませんから、きっとこういうことを公園でしているのでしょう。よく見ると踊りの先生が1名いて、いろいろと指導しています。グループは大体10名くらいです。カセットテープレコーダーを持参していて、かなりアップテンポな音楽に合わせて軽快に踊っています。日本の盆踊りのように、ひたすら丸く円になって、前の人の後を歩いていくというようなのんびりしたものではありません。

 その踊りたるや、なかなか複雑なものです。彼女たちは5人づつ2組に分かれ、手には小さな花かごなど持ち、素早く2組が交差します。それも1度に交差するのではなく、時間差を持って2人づつ交差をするという高度なものです。日本人のこの程度の年齢のご婦人なら、きっと1組や2組は衝突をしたでしょう。上海雑伎団ほどとは言いませんが、かなりの熟練と運動神経を要求する踊りです。私たちも珍しく思ったのですが、公園に来ている現地の中国人も珍しかったようで、立ち止まって見物しています。踊りはその1、その2みたいに幾通りにも別れていて、一区切りつくと、しばらく立ったまま小休止が入ります。そして、また音楽に合わせて踊りだします。

 一体この人たちはなんなのでしょう。平日の午前に公園で踊りを踊る一団。いわゆるダンス愛好会の練習風景なのでしょうか、顔を見るとけっして若くありません。まぁいいところ60代前後です。年金生活者かも知れません。詳しいことを聞くだけの語学力もないので、そのことは分かりませんでした。

 なおも歩いていくと、今度は木陰で卓を囲んでいる姿が目に入りました。平日の午前に大人が顔をつきあわして、今後の中国はいかにすべきかなどと相談していたわけではありません。彼らは麻雀をしているのです。私は麻雀というものをまったく知りませんが、その牌は日本のものより1回り大きいようです。いろいろな所を歩いていると、あちこちで麻雀をしています。

 それに麻雀だけでなく、西洋トランプを小さくしたような札を手に持って、遊んでいます。きっと中国トランプとでも言うのでしょう。このトランプをする一群も公園のあちこちで見かけました。国民性の違いなのでしょうか、平日の公園で踊りを踊ったり、麻雀やトランプをする中国市民の姿を見たのです。

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