第7章 帰国日・中国第6日目 (64/67)

2匹目のドジョウ

 私の席のすぐ前にはビジネスクラスとエコノミークラスを仕切るカーテンが引かれています。トイレはビジネスクラスの前の方にあるようで、時々エコノミークラスの乗客がそのカーテンを開けてトイレに行きます。その度にビジネスクラスの様子がいやでも目に入るのですが、どうも変なのです

 私は「あいにく今日はビジネスクラスは満員です。エコノミーの一番入り口に近い席を用意するのでそこまで行ってほしい」ということを素直にうのみしていたのですが、チラチラと見えるビジネスクラスの座席にはどうも人がいる気配がありません。考えてみれば平日の朝に飛ぶ国内線のビジネスクラスが満席というのも変な話です。よーーく見てみると、座っているのは数名で、後はほとんど空席です。

ということは……。

 結局、スチュワーデスとしては妥当な言い方であったのだろうと思います。私はエコノミークラスの運賃しか払っていませんし、ましてや「あーーーんして」食べさせてもらうような特別料金も払っていません。だまされたというより「まぁそういうこともあるなぁ」という感じがしました。

 もし私が英語も身振り手振りもできず、ひたすらおろおろと1人、車イスで往生していたなら、また違った展開もあったでしょう。場合によればビジネスクラスに座らせてくれるだけでなく「あーーーんして」食べさせてくれたかも知れません。そう思うと人の善意といい、真心というものはそうそう出るものではないということを思います。相手が本当に困っている時に、ふと人の心の底から涌いてくるようなものではないでしょうか? 
 私の場合、行きはそうでしたが、帰りはすでになんらかの予備知識があり、本当に困っているとは言い難い状況でした。悪い言い方をすれば「あーーーんして」食べさせてもらうことを期待して乗り込んだと言ってもいいかも知れません。言えることは日本でもそうですが、この中国でも2匹目のドジョウは品不足で、そうそうあるものではないということです。

 だからといって、この帰りの中国の国内線のスチュワーデスのオネーサンが不親切であったかというとそうでもないのです。人というのは本当に複雑で、いろいろな面を見せるものですから、ある時は赤色に見え、ある時は黄色に見え、とてもあの人は何色と特定できるものではないことを感じます。「あいにく席は満席で――」と私に言ったスチュワーデスは、飛行機から降りる際、10人に1人くらいしか配らなかったおみやげをちゃんと手渡してくれたのです。何か後で聞きますと、そのおみやげを乗客に向かって放り投げていたそうです。私の場合はちゃんと手渡しでくれましたし、そのおみやげを私は行きも帰りももらったのです。


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